演奏会に行ってきました「住友郁治ピアノリサイタル ハイドン、ベートーヴェン、ブラームス、リスト」(2009-40)
2009年9月24日(木)東京文化会館小ホール(東京メトロ日比谷線銀座線上野駅徒歩8分) 使用ピアノ:ベヒシュタイン
《プログラム》
J.ハイドン:ソナタ 第50番 ハ長調 Hob.ⅩⅥ.50
L.v.ベートーヴェン:ソナタ第17番 ニ短調 作品31-2「テンペスト」
・・・・・休 憩・・・・・
J.ブラームス:6つのピアノ小品集 作品118
F.リスト:巡礼の年報第1年「スイス」より第6曲〈オーベルマンの谷〉
F.リスト:メフィストワルツ第1番 村の居酒屋での踊り
《印象 感想など》
東京文化会館友の会のプレゼント企画に当選したもの。私の席:N列47番(自由席)。ピアノ:ベヒシュタイン。ベヒシュタインを聴くのは初めて。聴衆はかなり入る。
ハイドン:ピアノ・ソナタ 第50番 ハ長調 Hob.ⅩⅥ-50
第1楽章 落ち着いた音。スタインウエイほどきらびやかではない。聞こえるのは紛れもない古典派の音楽。 第2楽章 テンポはゆっくり。 第3楽章 テンポを上げて、きっちりとした演奏。
《作品解説》 渡辺千栄子
本年はヨーゼフ・ハイドン(1732~1809)の没後200年という記念年にあたるため、そのハイドンを讃え、本日の演奏会は彼の作品で始められます。
ハイドンが何曲のピアノ・ソナタを書いたのかについては、真偽が明らかでない作品があるため、いまだに確定されておらず、54曲とも62曲とも言われています。いずれにせよ、ハイドンは生涯を通じてピアノ・ソナタを書いたことは明らかです。本日演奏される《第50番ハ長調》(ヴィーン原典版では第60番)は、ハイドンが1794年から翌年にかけてロンドンを訪れた時に書かれたことから「ロンドン・ソナタ」とか「イギリス・ソナタ」と呼ばれる3曲のソナタの第1曲です。
優れたピアニストであったジャンセン嬢に捧げられたもので、充実した作品となっています。明るく快活なアレグロの第1楽章、表情豊かに歌うアダージョの第2楽章と続き、アレグロ・モルトの第3楽章によって軽快に曲が結ばれます。
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第17番 ニ短調「テンペスト」作品31-2
第1楽章 序奏のあと、少し決然と有名なテーマに入る。このピアノ、なかなかいい音で響く。 第2楽章 やさしい感じの音楽で繋ぐ。ロマンを感じさせる。 第3楽章 そして終曲へ。大好きなテーマが奏でられる。とても素敵な演奏。
《作品解説》 渡辺千栄子
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770~1827)は、ほぼ全生涯にわたって独奏ピアノのための作品を書いています。ピアノ曲は、彼の作曲家としての成長の軌跡をたどることのできるジャンルのひとつとなっていますが、なかでもとりわけ重要なのがピアノ・ソナタです。ベートーヴェンは、初期に書かれた作品番号のない曲を含め、37曲のピアノ・ソナタを遺していますが、本日は「テンペスト」の名前で有名な第17番が演奏されます。第17番は、1802年に作られた作品31のソナタの第2曲ですが、この頃のベートーヴェンは難聴に悩んでおり、苦悩する彼の心境が曲に反映されていると言えましょう。
「テンペスト」という名前は、ベートーヴェンの身の回りの世話をしていたシントラーがこの曲表現内容について尋ねたところ、ベートーヴェンが「シェークスピアの『テンペスト』を読みなさい」という話に出来しています。この話の真偽はともかく、第1楽章は冒頭からラルゴの瞑想的な楽句を巧にアレグロの情熱的な楽に対比させることによって、まさにテンペスト(嵐)のような効果を生みつつ劇的に展開されていきます。そして物思いに耽っているかのようなアダージョの第2楽章の後、優しさと烈しさがぶつかり合いながら展開されるロマンティックなアレグレットの第3楽章によって曲が閉じられます。
ブラームス:6つのピアノ小品集 作品118
第1曲 ロマン的な曲だが活気がある。 第2曲 しっとりとした感じの曲。 第3曲 リズミックだが流れる。 第4曲 伸びやかな感じの曲。第5曲、第6曲と続く。
《作品解説》 渡辺千栄子
優れたピアニストでもあったヨハネス・ブラームス(1833~1897)は、生涯にわたってピアノと関係のある作品を書き続けましたが、ブラームスが59歳の夏、ヴィーン郊外の保養地イシュルで書かれた四つの小品集(作品116、117、118,119)が、彼の最後のピアノ作品となりました。以前から書いていたピアノ小品を組み入れて完成されたこの四つの小品集にはブラームスの個性が集約されていますが、全体的にはブラームス特有の力強さや情熱は影を潜め、ロマン派音楽の黄昏のような、枯れた響きにつつまれた叙情的な作品となっています。
また、この年のはじめにブラームスは、生涯にわたって音楽上でも強い影響を受けた女性の一人エリザベト・フォン・シュトックハウゼンと姉のエリーゼを相次いで亡くしており、四つの小品集には時折亡き人への想いを語っているかのような感傷的な響きも漂っています。本日はその中から作品118の《6つのピアノ小品集》が演奏されます。
第1曲は、情熱が込められた幻想曲風の曲。第2曲は、昔を懐かしみ、その思い出を淡々と語っているような曲。第3曲は、ブラームス特有の力強い響きとリズムが印象的で、流麗な旋律に彩られた中間部との対象も見事です。第4曲は、どこかわびしさが漂う曲で、自由なカノンの手法が用いられています。第5曲は、のんびりとした田舎の田園風景を思わせるような曲。中間部のトリル用いた細かな動きは小鳥たちのさえずりを描写しているようです。第6曲は、苦悩に覆われた曲で、寂しさの中に不気味な響きが漂っていますが、中間部は全く対照的な力強く軽快なものとなっています。
リスト:巡礼の年報 第1年「スイス」うおり第6曲「オーベルマンの谷」
《作品解説》 渡辺千栄子
フランツ・リスト(1811~1886)の《巡礼の年報》は、第1年「スイス」(1855年出版)、第2年「イタリア」(1858年出版)、第2年補遺「ヴェネツイアとナポリ」(1861年出版)、第3年(1883年出版)という全4集2巻から成るピアノ小品集です。標題が示すように、リストが訪れた土地で触れた自然や芸術、体験等からインスピレーションを得て書かれた作品が集められています。
本日は第1年「スイス」より第6曲〈オーベルマンの谷〉が演奏されます。この曲は《巡礼の年報》26曲中、とりわけ有名な曲のひとつです。
リストは、24歳の時に既婚のマリー・ダグー伯爵夫人とパリの社交界を逃れ、スイスのジュネーブに滞在しており、その時のスイスで触れた印象や体験を綴った曲集『旅行者のアルバム』を1842年に出版しています。その後この曲集に含まれる7曲をもとに2曲を加えて作り直したものが《巡礼の年報1年「スイス」》です。第6曲〈オーベルマンの谷〉は、フランスのフランスの文学者セナンクールの書簡形式の小説『オーベルマン』にインスピレーションを得て書かれたものです。この小説は当時ゲーテの『若きウエルテルの悩み』と並んでベストセラーになったもので、自殺願望を持つ主人公の青年オーベルマンが自己の道を見出すまでの内面的な心の動きがスイスの自然の描写を交えながら描かれています。リストは〈オーベルマンの谷〉の冒頭に小説からの一節を引用しており、まさに小説の主人公オーベルマンの心の変化を巧に描いています。
リスト:メフィスト・ワルツ 第1番「村の居酒屋での踊り」
《印象 感想など》
非常に活気のある曲。ハイテクニックを要する曲。高い音でセンチメンタルを感じさせる。
《作品解説》 渡辺千栄子
リストは、19世紀ヨーロッパを代表するピアノの名手で、特に若いころは、彼の超絶技巧に酔いしれる若い女性の熱狂的なファンもいるほどの人気ぶりだったと伝えられています。そうした彼の作品には、超絶的技巧が要求されるものが多く、本日演奏される《メフェスト・ワルツ 第1番》もそのひとつに数えられます。
リストは『ファウスト』の物語に基づく作品をいくつか書いていますが、《メフィスト・ワルツ 第1番》もそのひとつです。大作《ファウスト交響曲》(1854~57)がゲーテの『ファウスト』に基づいているのに対して、《メフィスト・ワルツ 第1番》はレーナウの『ファウスト』に基づくもので、1857年から61年にかけて書かれた管弦楽曲《レーナウのファウストからの二つのエピソード》の第2曲《村の居酒屋での踊り》をリストがピアノ演奏用に編曲したものです。物語は、居酒屋にやってきたファウストと悪魔メフィスト、メフィストがヴァイオリンでワルツを弾き始めると人々が踊り出し、ファウストもマルガレーテを見つけて踊り出す。そうして二人がそっと居酒屋から抜け出すと、夜空ではナイチンゲールが歌っているという内容ですが、その内容が名人芸的手法を駆使しつつ巧に表現されています。
アンコール シューマン:トロイメライ
《プロフィール》
住友郁治(ふみはる)
1969年生まれ。国立音楽大学付属高校卒業。国立音楽大学首席卒業。国立音楽大学大学院主席終了。現在、国立音楽大学、洗足音楽大学、各非常勤講師。・・・・・
これまでに池澤幹男、武井恵美子、ダン・タイソン、故アンリエット・ピュイグ=ロジェ、各氏に師事する。
ピアノ:ベヒシュタインについて-ユーロピアノ株式会社
エントランスで貰ったパンフレットより
C.ベヒシュタイン 神話と生きる文化
クラシックの楽器は偉大な人物と同じである-傑出した個性を持ち、いつでも人を納得させ、内奥の望みを満たしてくれる。新しい次元を開いてくれることはあっても、決して失望させられることはない。
ベヒシュタインにはそんな個性がある。1853年以来、ベヒシュタインの音色はプレイヤーと聴衆を魅了し続けてきた。
巨匠たちは、その偉大なメッセージを伝える仲介者としてベヒシュタインに全幅の信頼を寄せてきた。リストからルトスラフスキー、チェリビダッケからベンデレツキー、バーンスタインからセシル・テイラー、シャルル・アズナブールからチック・コリアまで、一点の曇りもない一級品の良さを味わうには、必ずしもピアニストである必要はばい。現在製作されている機種は、それぞれにベヒシュタインの響きの伝統を宿しており、弾いててみると思い通りの音とタッチで高い要求に十分応えてくれる。・・・・・
ベヒシュタインの音-透明な響き
リストからジャズ音楽まで、巨匠たちが愛好
ベヒシュタインピアノは、音の立ち上がりが速く、音色に透明感があるので、演奏者のイメージがそのテクニックによって的確に表現できると言われます。こうした響き方はやはりスタインウエイの豪奢なそれとは対照的です。リストやドビュッシーは、非常に複雑な和音の上であっても意図する旋律を美しく表現できる楽器としてベヒシュタインを評価し、生涯にわたってベヒシュタインを弾き続けました。ドイツ・ワイマール市にあるリストハウスには、リストが弾いたグランドピアノが現在も置かれていますが、これは1999年初めにベヒシュタインの工場で復元された後、スペインのコンサートで何度も使用され、その品質の高さと耐久力を実証しました。
ベヒシュタインピアノによる近年の名演奏としては、J.ボレットのリスト作品の演奏(録音)を忘れることはできません。彼は、ベヒシュタインの価値を熟知したピアニストならではの演奏記録を数多く残しています。また、クラシックだけではなく、即興演奏に重点をおくジャズ音楽の世界でも、ベヒシュタインのこうした特性が好まれて、ベヒシュタインが数多く使用されています。世界に名だたるベルリン・ジャズフェスティバルでも使用されているのはつねにベヒシュタインで、近年では、セシル・テイラーが、即興演奏の録音でベヒシュタインを弾いています。
カール・ベヒシュタインの音作りの思想
ベヒシュタインがピアノ作りを始めた19世の初頭、ピアノ産業のマーケットリーダーはブレイエル社、エラール社のあるフランスでした。カール・ベヒシュタインはピアノ製造技術を習得すべくフランスに渡って研鑽を積んでおり、帰国後の彼がピアノ作りのコンセプトとしたものの中にもフランス流のピアノ製法が生きていました。また、ベヒシュタインピアノの個性である透明な響きを確立したのは、友人カール・ベヒシュタインに対するハンス・フォン・ビューローやリストなど錚々たる作曲家たちの要求でもあります。
現在のベヒシュタインが課題としているのは、カール・ベヒシュタインが作った響きの伝統を継承し、現代の音楽需要に応えることです。素材の選択、木材の自然乾燥や鉄骨のシーズニングは、目的とする音作りのための必要条件で、機能上または生産上、品質の平均化を優先する大量生産のピアノ製造とは基本的に姿勢が異なります。ベヒシュタイン社のピアノ製作過程でもっとも優先されるのは、楽器の個性を作ることです。
アップライトピアノでも、ベヒシュタインの独特な響きが奏でられるよう、グランドピアノの場合と同様、各部にわたって工夫され妥協のない製作が製作がなされています。
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