演奏会に行ってきました「鴨川太郎バリトンリサイタル 日本の歌曲」(2008-42)
鴨川太郎バリトンリサイタル 「古今東西、いろはにほへと」
2008年8月24日(日)午後2時開演 東京文化会館(小ホール)JR上野駅公園口交差点渡って2~3分・東京メトロ日比谷線上野駅徒歩5分。東京文化会館友の会プレゼント企画に当選したもの。
挨拶にかえて
今回の私のリサイタルは、新旧の日本の歌曲だけ、しかも17曲ほとんどが違う作曲家の作品で、お楽しみいただこうという趣向でございます。題して「古今東西、いろはにほへと」。
《曲目等》 鴨川太郎
顧みすれば、平安の中頃、日本語の音節の全て、しかも重複することなく並べ、仏教的世界観をもつ七五調の「うた」ができたというのは、本当に奇跡的なことでした。「いろは四七文字」の中に種々の暗号を見だしたとして、ヘブライ語やキリスト教的世界観との関連を主張する説までありますが、誰がそれを作ったのは諸説あって未解決のまま。時代考証的に可笑しいとされながらも、空海説、柿本人麻呂説、また、真言密教の学問僧説、源為憲説・・・・と様々です。いずれにしても「いろは歌」は、日々たゆまぬ努力と研究を重ねていた僧侶や歌人たちに、ある時天から振ってきたんじゃないか、と私は思っています。一般に「いろは歌」は、仏典『涅槃経』の中の四句を意訳したものとされていますが、それは、お釈迦様が前世で命がけの修行をしていた時、見るに見かねた帝釈天が羅刹(=鬼)の姿に変身して教えてくれたものだったそうです。
さて、今日ここで皆様にお聴きいただく歌曲にも、日夜、命がけで創作に心を砕く日本の詩人と作曲家たちの、特別なひらめき(=軌跡)があります・・・・・
全曲民謡調で作られた歌曲集《日本の笛》の中には、南国風から北国調まで、日本各地の気候風土が歌い込まれていますが、〈ちびつぐみ〉は北国調。寒い冬山で用意周到に猟師がツグミを捕まえようとしています。
歌曲集《沙羅》の中の〈鴉(からす)〉は「狂言風」。冬の小さな田んぼ(=小田)に張った薄い氷(=薄ら氷(ひ))。その上を何やら啄(ついば)みながら、足の裏(蹠(あうら))も冷たそうに、氷を踏み割っている滑稽な鴉を、「大をそ鳥」(=とっても軽率な鳥)よ、と揶揄します。
九月九日、月夜の晩に、村の若い衆が箱入り娘のお六ちゃんを呼び出そうとするも、そっぽを向かれて皆しおれてしまうという〈お六娘〉は、浄瑠璃など、三味線音楽の流れを汲んでいます。
振られた男が泣きの涙で自棄(やけ)酒を。酒の肴は、蟹(がね)を臼でついて味噌と鷹の爪を和えた辛~い〈蟹味噌(がねみそ)〉。「泣(ね)えてくれるなら、一緒に死んでくれ~!」と。
醤油や味醂で煮詰められた魚、つまり〈つくだ煮の小魚〉を水溜まりに放ったら生き返るかな?いやいや、冗談はやめて下さい!
昔、山深い僻地では、貴重なタンパク源だった「たにし」。だけど、この話は僻地だけじゃすまなくなっていますね、昨今は・・・〈たにし辛み唄〉(今日は東北弁風で)。
「都々逸(ドドイツ)」と「ルンバ」を合成してできた和製和製ラテン音楽がドドンパ。焼き肉屋さんで食べる定番のご飯料理、ご存知「石焼きビビンバ」をドドンパで召し上がれ・・・・〈ビビンバのドドンパ〉。(昨秋、日本歌曲振興会の定演で、初演させていただきました。)
いや~〈まっかな秋〉〈落葉松〉〈日記帳〉などを作曲された大先生が、かような超現代曲〈写楽の鏡〉を作られたとは!ピアノの冒頭のメロディ(ミー・ミ・レ・レー・ミ・ソ♯ー)は、「とー・しゅ・う・さーぃ・しゃ・ら・くー」と、お聞き下さい。写楽の魅力に取り憑かれ、正体探しに迷い込んだら・・・・。秀逸なストーリーの結末は、聴いてのお楽しみ。(この曲も「日本歌曲振興会」生まれの大作です。)
「結婚しなけりゃ夜も日も明けぬ」と思われた詩人の魂。歪められたメンデルスゾーンの《結婚行進曲》が、結婚後に待っていた恐ろしい事実を暗示する〈結婚〉。
皆様に私の関西弁がご理解いただけるでしょうか?これも「日本歌曲振興会」生まれの〈空屋の風鈴〉。(それにしても、ほんまに苦労させられましたわ、関西弁にはな~。)
この歌を聞いて豚肉が食べられるでしょうか?えっ?!やさしい気持ちで食べられるようになった、ですって?ああ~〈ロマンチストの豚〉。
こともあろうに、日本音楽界の大御所お二人が、このような曲を?!お二人の共作歌曲集《四つの風刺的な歌》から、〈サッチャンの家〉。神奈川犬警と新潟犬警の不祥事が取り沙汰されていた頃の作品ですが、犬のお巡りさんに同情してしまう自分が、何だか恐ろしい。
ここからは全部、比較的新しい、日本歌曲振興会(新・波の会)生まれの作品です。
〈明日また〉は、夜明けから日没まで、、「愛してる?」「うん、愛してる!」なんてやりとりするカップル。熱々ですね。でもそれは、○○のカップルで~す。【問題:演奏を聴いて○○を埋めよ。】昨秋、日本歌曲振興会の定演で、初演させていただいた、素敵曲で~す。
会田さん、「あなたは~」あの頃ミラノで〈木漏れ日のヴィジョン〉を作っていたのですね、後で知りました。私と会田氏は同じころミラノに留学していて、共通の友人、永井氏のお宅のパーティーで知り合ったのですが・・・・「あなたは~」こんなにもナイーブでロマンティックなイメージをあの頃抱かれていたのですね!
『解説付日本歌曲選集2』の原稿を作っている時に、〈風のように〉の詩人と文通させていただきました。もう5年も前になりますが、詩人は作詞当時の状況に続いて、こう記されました・・・・「平野淳一氏の御陰で歌曲となって以来、様々な嵐の中の私を支えてくれた『嵐のように』は、今、アルツハイマーの夫の手を握りしめて歌う穏やかな幸せをくれるのです。」と。
地中海沿岸の古代の竪琴を思わせる旋法性の音楽に乗って、老い枯れてゆく〈秋のひまわり〉の姿が、悲しいまでに美しく、自然や宇宙の摂理を象徴します。
泥沼に根を張り、そこから清らかで美しい淡紅色や白色の大輪を咲かせる芙蓉(蓮)。朝つぼみを開き、夕べにはそっと閉じる慎ましさ・・・・〈夕焼けに目を閉じて〉。
それでは、しばし暑さを忘れ、冬山に思いを馳せて、ごゆっくりお楽しみ下さい。「暗いうちか~ら、わしゃ山稼ぎ・・・・」
《プログラム 印象 感想》
☆伝統音楽の延長線上に・・・・・
ちびつぐみ 北原白秋 詩/平井幸三郎 曲
鴉(からす) 清水重道 詩/信時 潔 曲
お六娘 林 柳波 詩/橋本國彦 曲
言葉(日本語)がよく解る歌い方。
☆珍味(酒肴・副菜・大食・・・・)
蟹味噌(がねみそ) 北原白秋 詩/山田耕筰 曲
つくだ煮の小魚 井伏鱒二 詩/中田喜直 曲
たにし辛み唄-僻地嫁無譚(へきちよめなしたん) 小林純一 詩/湯山 昭 曲
ビビンバのドドンパ 狩野敏也 詩/廣木良行 曲
バリトンらしい声が響く。
☆伝統音楽らしい超現在
写楽の鏡 木下宣子 詩/小林秀雄 曲
斬新な曲で伴奏も面白い。表情豊かで、身振りも面白い歌い方。お金が泣き出すという趣旨の歌。硬貨が、ポケットからこぼれる。滑稽味がある。
・・・・・・休 憩・・・・・
☆哀感(ペーソス)漂うユーモア・・・
結婚 山之内 獏 詩/中田喜直 曲
空家の風鈴 矢柴うたこ 詩/玉井 明 曲
ロマンチストの豚 やなせたかし 詩/玉井 明 曲
サッチャンの家 畑中良輔 詩/大中 恩 曲
犬のお巡りさん、や サッチャンの歌などのパロディー。面白く楽しい歌の数々。
☆新しい波・・・・・
明日また 大畑良夫 詩/大橋美智子 曲
木漏れ日のヴィジョン 中西 遥 詩/会田道孝 曲
風のように 五十川式部 詩/平野淳一 曲
秋のひまわり 佐久間郁子 詩/伊那律子 曲
夕焼けに目を閉じて 西岡光秋 詩/西岡文郎 曲
芙蓉の花を歌った曲。
新しい感覚の曲が多い。しっとりした曲もある。色んな日本歌曲があるなー、という印象。
《アンコール》 「日記帳」 小林秀雄 曲
《演奏者プロフィール》
バリトン:鴨川太郎
東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。同大学院音楽研究科修士課程及び博士後期課程(オペラ専攻)終了。学位論文『《ドン=バスクワーレ》の解体=構築』とドニゼッティやヴェルディのオペラ・アリアの演奏成果が認められ、学術(音楽)博士号を授与される。
大学卒業時、『芸大メサイヤ』(バス・ソリスト)、『読売新人演奏会』やNHK-FM放送の『デビュー・リサイタル』に出演。故・渡邉高之助、三林輝夫、早瀬一洋、U.ガルディーニ、A.モナコ、D.マッツォーラの各氏に師事。大学院在籍中、『芸大定期オペラ』の《フィガロの結婚》(伯爵)でオペラ・。デビュー。その後、国際ロータリー財団奨学生として渡伊。ミラノ音楽院で学びながら、イタリア各地で演奏する。・・・・・
1995年、ローディー市の第6回国際コンクール・オペラ部門に3位入賞。・・・・・
東京藝術大学音楽学部声楽科(平成18-19年度)及び昭和音楽大学の声楽科の非常勤講師。日本オペラ協会、東京二期会、日本歌曲振興会、日本ロッシーニ協会、ぐるーぷ・なーべ、三輝会、各会員。
ピアノ:沼田宏行
東京藝術大学ピアノ博士。東京藝術大学芸術学課程博士習得。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校ピアノ科、同学部を経て、同博士課程を主席で終了。クロイツァー賞を受賞。
安川加壽子、高良芳枝、ピエール=バルゼビ、ジャック・ルビエの各氏に師事。国際ロータリー財団奨学生として渡仏し、マルセイユ音楽院を審査員賛付き金賞受賞にて卒業する。1990年度ドビュッシーピアノコンクール優勝。・・・・・・
愛知県立芸術大学、フェリス女学院大学、お茶の水女子大学、群馬大学、茨城大学を経て、現在、東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校教諭として、後進の指導と共に、放送、演奏会に精力的に活躍する。


最近のコメント