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2008年5月26日 (月)

演奏会に行ってきました「鈴木秀美指揮 チェンバー・オーケストラ ハイドン『太鼓連打』 ベートーヴェン『英雄』」(2008-6)

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トッパンホール ニューイヤーコンサート2008 鈴木秀美指揮 チェンバー・オーケストラ

2008年1月12日(土)15:00開演 飯田橋下車徒歩13分 トッパンホール G列12番(中央の席) ホールの内壁・床は木造でとても響きの良いホール。収容人数400人程度。女性奏者カラフルな衣装で登場。楽器は現代の楽器で、鈴木秀美がモダン楽器を指揮するのは、初めて聴く。

ひと味違う、トッパンホールのニューイヤーコンサート

 新しい年が明けた。今日トッパンホールのニューイヤー・コンサートにおいでの皆様方も、きっとすがすがしく改まった気持ちでこのコンサートに足を運ばれたことだろう。時間は昨年から何の途切れもなく繋がっているのに、年が改まるとなぜか気分も改まり新たな意欲も湧いてくる。時間の区切りは様々にあるが、中でも年の区切りは人間にとって極めて重要ような意味を持っているように私は思う。

 いくら今まで様々な問題を抱えていたとしても、年が改まるとそれまでのことはひとまずおいて、とにかく新たな気持ちで新たなことに挑戦しようという意欲が湧いてくる。物理的には地球が太陽の周りを1周するということに過ぎないのだが、不思議なことに、この実に絶妙な区切りを持つことによって、人間は堕落のスパイラルに陥ることなく、地球上で繁栄し続けててきたのではないだろうか。新年とは、まさに新たな気持ちで新たな世界に向かって挑戦できる気分を起こしてくれるという意味で、まさに明けましておめでとうということなのだ。

 そしてそうした時に素晴らしい音楽に耳を傾けるのは格別だ。様々なところでニューイヤー・コンサートが華やかに行われるのは、そうした改まった気持ちを起こさせてくれる新年を心から寿ぎたいからだろう。しかしウイーンのニューイヤー・コンサートがあまりに有名だからといって、どこもかしこもウイーンナ・ワルツばかりというのは余りにも芸がなさすぎる。新春にふさわしい音楽は、何もシュトラウス一家の音楽ではないからだ。

 いつも素晴らしい企画によって聴衆の耳を心ゆくまで楽しませてくれるトッパンホールは、その点さすがにひと味違う。鈴木秀美と在京オケのトップ奏者、さらに欧州からの名手を集めたチェンバー・オーケストラを迎えて、今年はハイドンとベートーヴェンの交響曲をプログラミングするという本格派。しかも曲目は《交響曲第103番「太鼓連打」》と《交響曲第3番「英雄」》という大曲だ。両曲ともに彼らが交響曲の世界でいかに新しいことに挑戦していたかの証のような傑作だが、鈴木がモダン・オーケストラで初めてベートーヴェンを振るという挑戦を含めて、我々も作曲家の新しい試み、指揮者やオーケストラの新しい試みへの挑戦、さらにはトッパンホールの他所とは違う斬新なアイデアに充ちた企画を心から楽しみながら、改めて新しい年が良き年となることを念じたいと思う。

《プログラム》

ハイドン:交響曲第103番 変ホ長調 Hob-103「太鼓連打」

       ・・・・・休憩・・・・・・

ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調 Op.55「英雄」

《印象 感想》

ハイドン:交響曲第103番 変ホ長調 Hob.103「太鼓連打」

Ⅰ アダージョ-アレグロ コン スピリット Ⅱ アンダンテ ピュー トスト アレグレット Ⅲ メヌエット Ⅳ フィナーレ. アレグレット コン スピレット

 指揮する前に、テインパニーが鳴る。指揮者はノー・タクト。アンサンブルは素晴らしい。古楽器のほうが、音が柔らかいかなという印象。弦の中・低音がよく鳴り、響く。弦・管ともとても上手く、生き生きとしたハイドン。

ハイドン:交響曲第103番 変ホ長調 Hob.I-103「太鼓連打」

《プログラムノート》 中村孝義

 鈴木が手兵のピリオド楽器オーケストラ「リベラ・クラシカ」を振って盛んにフランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732~1890)を演奏し、わが国にもハイドン・ルネサンスを起こしつつあることは、ここにお集まりの方なら先刻ご承知のことだろう。その業績を通じて、ハイドンが遺した100曲余りの交響曲が、同じく68曲に及ぶ弦楽四重奏曲と並んでウイーン古典派の音楽作法の基盤を形成した重要な作品群であったことは理解されつつあるといってもよいかもしれない。

 しかしそうはいっても、まだわが国では、その曲数の多さが災いしてか、あるいはモーツアルトの悲劇的晩年やベートーヴェンの波乱に満ちた創作活動などと比べてあまりに平穏な生涯と、あの人の良さそうな風貌が災いしてか、ハイドンの音楽を毒にも薬にもならない楽観的な音楽と思い込んでいる向きも少なくない。しかしそれは甚だしい誤解である。

 実は彼の音楽ほど古典派の精神を過不足なく実現したもののもそう多くはない。モーツアルトがハイドンをこよなく敬愛していたように、彼の音楽には、音楽を愛するものにとってかけがいのない精神的愉悦が、見事にバランスの取れたまとまりのよい形でたっぷりと繰り広げられているのだ。

 在世当時、ハイドンが並ぶべきもののない大家であったことは、例えば1786年に作曲したパリ交響曲の各曲の作曲に対して、現在の貨幣価値に直せば、何と600万円もの報酬が支払われたという事実が何よりもよく示している。そしてその評価は、現在残されている彼の作品の質の高さから言えば、当然のことであったといえよう。

 さて今日演奏される《第103番「太鼓連打」》は、2度にわたるロンドン訪問に際して、ザロモンからの依頼によって作曲された12曲の「ロンドン交響曲」に含まれるものである。この曲以外にも《驚愕》《軍隊》《時計》《ロンドン》など、いわゆる有名曲がほとんど含まれていることからも分かるように、このセットにおいてハイドンは、ソナタ形式、楽器法、豊かな表現内容が一体となった、真にバランスの取れた古典的な交響曲の頂点に到達したのであった。ただ大英博物館に残されている自筆譜によれば、この曲はザロモンが演奏会を中止した後の1795に作曲されており、ロンドンに在住する音楽家たちによって新しく組織されたオペラ・コンサートと呼ばれる演奏会のために書かれ、そこで初演された。

 ハイドンが最も愛し、最も好んだ交響曲であったととも伝えられるこの作品は、彼らしく随所に新しい試みが見られる。その一つは、この作品のあだ名《太鼓連打》の由来となった聴衆の意表を突くような冒頭のテインパニーのソロ。こんな始まり方は、少なくとも交響曲では初めてであった。普通はトレモロで奏されることが多いが、鈴木は果たしてどうするか。二つ目は、テインパニ・ソロに続いて出てくるグレゴリオ聖歌の《デイエス・イレ(怒りの日)》思い起こさずにはいられないファゴットとチェロとコントラバスだけによるおどろおどろしい旋律。しかもこの序奏主題、これまでのハイドンには見られなかったことだが、第1主題の展開部で扱われると同時に終結部にも原型のままで再現される。こうしたやり方は、後のベートーヴェンの作品などには見られなくもないことから、ハイドンの先進性が窺えるというもの。主部のソナタ形式は、実に整然と構成されているが、序奏主題の挿入が決して違和感を与えない自然さをもっているところに、ハイドンの熟練の技が光っている。

 もう一つ挙げれば第4楽章の見事なロンド・ソナタ形式だろうか。たった一つの主題が、終始緊張をたたえながら動機的な発展を重ねて成長し長大な楽章を作るなど、当時のハイドン以外の誰がなしえただろう。ベートーヴェンがこの手法から学ぶところが大きかったのはいうまでもない。ハ短調の第1主題と、それから派生したハ長調の第2主題の二つの主題に基づく二重変奏曲の形式で書かれ、いつにも増した、優れた和声手法によって色彩感が豊かになり、音楽の彫りが深くなっている第2楽章、芸術的な洗練度が高い第3楽章のメヌエットもまさに熟練の技といえるだろう。

ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調OP.55「英雄」

Ⅰ アレグロ コン ブリオ Ⅱ 「葬送行進曲」アダージョ アッサイ Ⅲ スケルツオ アレグロ ヴイヴァーチェ Ⅳ フィナーレ.アレグロ モルト

《印象 感想》

 弦、古楽器的響き。ビブラートはほとんどなし。きびきびとした「エロイカ」。チェロ、コントラバスのピチカートが心地よい。3楽章のホルン、朗々と鳴りとても良い。3楽章から4楽章は直ぐに入り、大きなフィナーレを作る。ブラヴォー。

《アンコール》 ベートーヴェン:祝賀メヌエット 変ホ長調

《プログラムノート》 中村孝義

 さて後半に演奏されるのは、ルートヴイヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770~1827)の《英雄》交響曲。鈴木は大阪で「リベラ・クラシカ」と一度演奏しているが、東京では初めてだし、モダン・オーケストラと演奏するのも全く初めてのこと。前回のニューイヤーコンサートにおけるモーツアルトでも、楽器や奏法、その他、鈴木とオーケストラ・メンバーの間にある様々な考えや経験の違いが、両者に意外な驚きや新鮮な発見をもたらしたようだが、そうしたものは音楽に常に素晴らしい感動を付加してくれる。今回は果たしてどのような結果をもたらすか、本当に興味津々である。

 ベートーヴェンに感心のある人で、この《英雄》交響曲を知らない人はまずいないだろう。しかしこの作品を初めて耳にしたとき、ショックに近い衝撃をを受けた人はどれくいらいいるだろう。人間が経験を重ねるということは、ある対象の持つ意味の深さをより客観的に捉えるのに不可欠ではあるが、一方で驚きを知らなくなることでもある。

 ドイツ・ロマン派やフランス近代、さらには19世紀末から20世の音楽を経験してしまった耳には、ベートーヴェンの《英雄》といえども、もはや耳を驚かすものではないかもしれない。

 しかしこの作品が1804年に世に登場したとき、多くの人々はどれくらいの衝撃を受けただろうか。まずその長大さ。それまで聴衆は、50分になんなんとする交響曲など聴いたこともなかった。ブルックナーやマーラーの、ものによっては1時間半もかかろうかという交響曲を知っている耳には、50分は決して長すぎるということはないが・・・・。

 またハイドンやモーツアルトの交響曲にみられたような趣味のよさ、耳に対する快さが時に犠牲にされるという点でも、随分奇妙な作品と聞こえたに違いない。そこで展開される、時によっては和声上の矛盾から響きが汚くなることさえいとわず(例えば第1楽章再現部に入る前で、両ヴァイオリンの弾く未解決の属七和音とホルンの奏する主和音が同時に鳴り響くという、矛盾した響き)、言いたいことをなりふり構わず思い切って言う大胆な作法。それに展開部の提示部を超えるほどの大きさ。

 しかしこうした耳慣れない音楽作りは、あくまでベートーヴェンが何かを語るべく、音楽に真剣に対峙した結果だったのである。聴衆の側からすれば、これはうかうかと楽しんで聴いていられるような音楽ではなくなったということだ。それまで新しい工夫を盛り込むことはあっても、常に先達のスタイルに対する配慮も怠らなかったベートーヴェンだったが、この《英雄》交響国をもって、彼は古い衣装を思い切っって脱ぎ捨て、聴衆が襟を正して耳を傾けねばならないベートーヴェンならではのシリアスな音楽世界へと飛躍したのだった。その意味でこの作品は、ベートーヴェンにとって、そして音楽の歴史にとっても大きな転換点となる作品だったのである。

 この作品がナポレオンに捧げられるべく構想されたことは有名な話だが、だからといってこの作品を聴く際にナポレオンその人をイメージすることなど全く必要ない。ナポレオンは、ベートーヴェンを、音楽における革新的な話法へと導く重要なきっかけとはなったが、それが描写的に描かれたわけではなかったからだ。むしろベートーヴェンがイメージしていた「英雄性」は、作品の中にまさに「革命的語法」として見事に昇華され表現されている。後の音楽に慣れ親しんだ耳には、彼の音楽の斬新さを直覚的に感じ取るのは決して易しくは。しかしいま一度作品そのものに立ち返り、真剣に耳を澄ますなら、きっと斬新な工夫やその「英雄的」(エロイカとは形容詞である)意味が聞こえてくるに違いない。その意味でも、鈴木の指揮によって聴ける今回は絶好の機会といえるだろう。

 第1楽章は、まさに革命的なソナタ形式による、長大で充実した「英雄的」楽章。第2楽章は荘重な葬送行進曲。第3楽章はベートーヴェンの最初の本格的といってもよいスケルツオ。フィナーレは、俗に「プロメテウス主題」と呼ばれる主題を性格的に変奏する変奏曲の形式で書かれている。

《プロフィール》

指揮:鈴木秀美

 神戸生まれ。チェロを井上頼豊、安田謙一郎らに、指揮を尾高忠明、秋山和慶に師事。桐朋学園在学中よりバロック・チェロ奏者として演奏を始める他、オーケストラとの共演やリサイタル、室内楽、また指揮活動など幅広く活動。1984年文化庁海外研修員としてデン・ハーグ王立音楽院に留学。アンナ・ビルスマに師事。

 1986年にパリで行われた第1回バロック・チェロ・コンクールで第1位。国内外で演奏活動を展開し、ブリュッヘン率いる「18世紀オーケストラ」に1993年まで、クイケン率いる「ラ・プテイット・バンド」には1986年から2001年まで在籍し、1992年から同アンサンブルの主席奏者として活躍。鈴木雅明の主宰する「バッハ・コレギウム・ジャパン」では創立以来主席チェロ奏者を務めている。1999年より、水戸芸術館の専属クアルテット「ミト・デラルコ」でも活躍。2001年から古典派を専門とする「オーケストラ・リベラ・クラシカ」を主宰。・・・・・

 第37回サントリー音楽賞受賞。東京藝術大学古楽科非常勤講師。

《オーケストラ メンバー》

《ヴァイオリン》 三浦彰広(コンマス)ほか9名 《ヴィオラ》 鈴木 学 ほか3名 《チェロ》 銅銀久弥ほか2名 《コントラバス》 山本 脩ほか2名 《フルート》 斎藤和志ほか1名 《オーボエ》青山聖樹ほか1名 《クラリネット》四戸世紀ほか2名 《ファゴット》岡本正之ほか1名 《ホルン》サボルチ・ゼンブレーニほか2名 《トランペット》神代 脩ほか1名 《テインパニー》マールテン・ファン・デア・ファルク

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